現在のページ:トップページ > 環境・まちづくり > 環境 > 助成制度・計画・調査・統計・報告 > 環境調査・統計・報告 > 平成29年度港区における夏期ヒートアイランドの特性に関する調査結果
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この調査結果は、区が2017(平成29)年度に実施した夏期における区内の温度データ調査測定の結果について、首都大学東京名誉教授・三上岳彦氏が解析・執筆したものです。
港区内の夏期ヒートアイランド現象の実態を明らかにするため、区内26か所で気温の定点観測を行いました。
区内の小中学校(16校)の百葉箱と公共施設・公園(10か所)の観測用特殊シェルターに、小型の自動記録式温度計を設置し、10分間隔で気温の自動観測を行いました。
観測期間は2017(平成29)年7月13日から9月30日までです。
解析に用いたのは、8月1日から31日までの1か月間のデータで、月平均値や地区別平均値を求めて統計的な分析を行いました。また、区の観測とは別に、自然教育園内で行われた菅原広史防衛大教授による気温観測のデータを提供していただき、本解析に使用しました。
枠の数値は緯度(縦軸)・経度(横軸)
出典:「港区みどりの実態調査(第9次)」(平成29年 港区)を基図に、首都大学東京名誉教授・三上岳彦氏が作成
首都大学東京名誉教授・三上岳彦氏原図
1日の最高気温は、日射で地面が暖められるのに時間がかかるため、太陽の高度が高い正午でなく、午後2時頃に現れます。区内で最も気温が高いのは、南側の風上から高温な空気が流入しやすい南東部の港南地域で、31℃以上の高温域が品川駅東側の低地帯の海沿いに広がっています。
また、麻布地区の台地上にも31℃を超える高温域がありますが、周辺大規模商業施設からの人工排熱の影響を受けやすいためと考えられます。
これらの高温域に挟まれた芝地区から高輪地区は比較的低温で、特に高輪地区西部にある自然教育園は樹林からの蒸散作用で気化熱が奪われて気温上昇が抑制されるため、明瞭なクールアイランド(低温の島)を形成しており、園内から冷気の流出(にじみ出し・緑地風)が明瞭に認められます。同様に、北西部の青山霊園や赤坂御用地も緑地の効果により高温域に比べ低温域になっています。
首都大学東京名誉教授・三上岳彦氏原図
1日の気温が最も低くなるのは、早朝(5~6時頃)です。都内では、早朝にヒートアイランドの中心となる都心部に隣接する新橋エリアが夜間の人工排熱の影響で区内では最も高温となります。
また、港南エリアも人工排熱の影響で日中と同様に気温が高くなっています。一方、気温が低いのは緑地で、夜間に樹林の枝葉の茂っている部分からの放射冷却によって気温が下がる自然教育園を中心に、北部の赤坂御用地と麻布地区でも比較的低温になっています。他方、大規模商業地域に隣接する青山エリアは気温が高めです。
区内の平面的な気温差を日中と比べると、高温地域と低温地域の気温差は、日中は約4℃ありますが、早朝は1℃程度で地域差が小さい点に特徴があります。このことから、特に日中の高温地域の気温を低下させる対策が重要であると言えます。
首都大学東京名誉教授・三上岳彦氏原図
夜間の気温は区内で最も高くなりますが、日中は5地区の中間よりもやや低く、北東から南西に低温域が伸びるクールゾーンが形成されます。
赤坂地区の南に隣接し、夜間の気温はほぼ同程度に下がりますが、日中の気温はかなり高く、暑いホットエリアとなります。
北西部に位置し、赤坂御用地や青山霊園など、緑地があるため、日中・夜間ともに気温が低いクールエリアとなります。
1日を通して、区内では最も気温が低いクールエリアとなっています。これは、南西部の自然教育園の樹林からにじみ出る冷気が周辺を冷やす効果が大きいためと考えられます。特に日中の気温は周辺に比べて2℃から3℃も低くなります。
1日を通して、区内では最も気温が高いホットエリアです。この地区は沿岸部に高層建築物等の複合商業施設が多数建設され、緑被率も低いため気温が高くなりやすいと言えます。
海風の効果で比較的気温が低くなっています。
出典:「港区みどりの実態調査(第9次)」(平成29年 港区)を基図に、首都大学東京名誉教授・三上岳彦氏が作成
都市環境気候図とは、都市部の気候を「気温」や「湿度」、「風」などを組み合わせることで、各地域別に体感温度や風の流れを視覚的に分かりやすく表現した地図のことです。
図の上に示されている円形の「風配図」は、2017(平成29)年8月について、日中の風向別頻度を表しています。風配図から、港区では北東と南南東の風が吹きやすいことがわかります。北東から吹く風は、「北東気流」と呼ばれ、曇天冷涼な日に吹きやすく、南南東から吹く風は、主に東京湾から吹き込む「海風」です。
1日の最高気温と最低気温の分布から、区内の気候は以下のとおり地域別に区分することができます。
1.冷涼なクールエリア(赤坂地区)とクールアイランド(自然教育園)
2.昼夜ともに気温の高いホットエリア(芝浦港南地区)と日中に高温となる昼間のホットエリア(麻布地区)
3.南西部の自然教育園から北東に延びる昼間のクールゾーン
首都大学東京名誉教授・三上岳彦氏からの港区内ヒートアイランドの現状分析と緩和に向けた提案は次のとおりです。
港区内は、23区内でも緑被率(4位)や樹木被覆率(2位)が高いために、特に赤坂地区や高輪地区で夏期の気温上昇が抑制されています。一方、高層ビル等の建築物が立ち並ぶ芝浦港南地区では昼夜間ともに、芝地区では夜間に、麻布地区では昼間に気温が高くなっています。
都市部では、オフィスビルや住宅、工場、自動車、鉄道など、あらゆるものから、昼夜を問わず人工排熱が出されており、大気を直接加熱し、気温の上昇に大きく寄与しています。夏期の熱帯夜の日数も、港区を含む都心3区が最も多くなっています。
芝浦港南地区は、本来、東京湾からの涼しい海風の効果で夏期の気温上昇が抑制される地域であるにもかかわらず、区内では最も気温の高いエリアになっています。この原因は、夏期の卓越風向が南南東であるため、風上に広がる大井埠頭、羽田空港などの人工被覆エリアからの高温空気の流入も影響していると考えられますが、近年
増加した湾岸部の高層ビル(オフィス、マンション)が冷涼な海風の進入を抑制している可能性もあります。
港区では、ヒートアイランドの緩和策として、「緑地の保全と緑化」や「空調等からの人工排熱の排出抑制と省エネ対策」を行っています。今回は2017(平成29)年夏期に区内26カ所で実施された気温観測データの解析結果から明らかになったヒートアイランドの地域特性に基づいて、地区別のきめ細かなヒートアイランド緩和対策を次のとおり提案します。
北部の新橋地域は汐留高層ビル群によって海風が弱められるため高温になりやすいので、街路樹整備、遮熱性舗装等に加えて、排熱抑制、省エネ対策の強化が必要です。
大規模商業施設や首都高速道路からの人工排熱の影響で、特に日中の高温化が顕著なため、省エネ対策の推進、交通量抑制対策等が望まれます。
南東部の青山通り(国道246号)と六本木通り(都道412号)で挟まれた地域は、昼夜ともに自動車排熱と渋谷駅方面からの高温空気の流入による気温上昇を抑制・緩和するために、街路樹整備等による緑化の推進を提案します。
南西部の自然教育園が天然のクーラー的役割を果たしており、区内でも高い緑被率(特に樹林率)の維持がヒートアイランド緩和対策として有効です。
夏期は、南から南南東の卓越風による高温空気の流入がこの地区の高温化の主たる要因と考えられますが、東から南東の海風が吹く日は気温上昇が抑制されるという解析結果が得られたので、「風の道」に配慮した街区整備が望まれます。
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