更新日:2025年11月14日
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人権週間 寄稿文をお寄せいただきました
人権とは、誰もが生まれながらに持っている、人間が人間らしく生きていくための権利であり、人類が歴史の中で築いてきた財産です。国連は、「世界人権宣言」が採択された12月10日を「人権デー」と定めました。日本では、この人権デーを最終日とする1週間を「人権週間」として、全国でさまざまな人権啓発活動が行われています。
区においても、人権尊重に対する理解を深めていただくため、毎年人権に関して寄稿文をお寄せいただいております。
令和7年度は、甲南大学法学部で教鞭をとられている「笹倉香奈さん」です。
笹倉香奈さんは、冤罪救済に取り組むイノセンス・プロジェクト・ジャパン事務局長や、揺さぶられっ子症候群(SBS)による冤罪に取り組むSBS検証プロジェクト共同代表を務められています。SBSと冤罪について、寄稿していただきました。
※本寄稿文は、広報みなと11月1日号にも掲載されています。
「笹倉香奈さん」プロフィール
東京大学法学部卒業、一橋大学大学院法学研究科博士課程修了。博士(法学)。甲南大学法学部教授、日本刑法学会理事、日本犯罪社会学会常任理事を務める。専門は刑事訴訟法。
冤罪救済に取り組むイノセンス・プロジェクト・ジャパン事務局長や、揺さぶられっ子症候群(SBS)による冤罪に取り組むSBS検証プロジェクト共同代表を務める。

揺さぶられっ子症候群(SBS)と冤罪
冤罪とは、無実の人が犯罪者と疑われて捜査の対象となったり、その後起訴されて有罪判決を受けたりしてしまうことです。日本には死刑がありますから、時には国家が無実の人を殺してしまいうるのです。冤罪は、国が行い得る最大の人権侵害の一つです。
袴田事件、大川原化工機事件など、最近大きく報道された冤罪事件については、ニュースなどで見られたことのある方も多いでしょう。しかし、これらの事件の背景には、まだ誰も知らない、冤罪事件があるのです。
私は、2017年以降に「揺さぶられっ子症候群(SBS)」による冤罪事件の問題に取り組んできました。SBSは母子手帳にも記載があるので、ご存知の方もおられるかもしれません。
日本では2010年前後から、「子どもを揺さぶって死亡(傷害)させた」「頭部に重篤な損傷を加えた」とされ、逮捕・起訴され有罪判決を言い渡される事案が急増しました。SBSは、乳幼児の上半身を持って前後に激しく揺さぶることで頭部に力が加わり、脳の中などに損傷が生じて発症するとされるもので、特定の症状によって診断されるとされてきました。このような考え方を根拠とする医師の証言によって、多くの養育者が逮捕・起訴され、有罪判決を言い渡されてきました。
しかし、これらの症状はほかの原因によっても生じることが徐々に明らかになってきたのです。例えば、子どもがつかまり立ちから後ろに転んで頭を打ったり、身体の中に疾患があることによるものだったりします。つまり、いままで虐待であると判断されてきた事件の中に、実は多くの冤罪が含まれている可能性があるのです。このようなことから、SBS事件を検証するプロジェクト(SBS検証プロジェクト)を立ち上げました。そして、個別の事件で、このケースは虐待とはいえないと主張してきました。
例えば、2019年に大阪高等裁判所が一審の有罪判決を破棄し、逆転無罪判決を言い渡した事件があります。孫(女児)を祖母が2時間余り預かっている間に急変し、その後亡くなったという事例です。女児の頭の中に出血があったことから、祖母は、激しく揺さぶって虐待したのだという医師の意見をもとに起訴され、一審で懲役5年6月を言い渡されました。しかし、海外の医師の意見などを聞いた結果、この赤ちゃんには静脈洞血栓症という病気があったことが明らかになったのです。たまたま預かった子どもが急変し、虐待を疑われる――誰の身にも起こりうる、冤罪事件です。
幸いにして、これまでに私たちがかかわった事件のうち、13件で無罪判決が言い渡されました。いったん起訴されると99%以上が有罪になる日本の刑事裁判で、数年の間に13件もの無罪判決が、同じ類型の事件で立て続けに言い渡されるのは異例です。しかし、これらの事件の背後には、まだまだ明らかになっていない虐待冤罪事件が眠っているはずです。
私たちの活動を追ったドキュメンタリ映画「揺さぶられる正義」が、2025年9月に公開されました。さらなる冤罪を防止するために私たちに何ができるのか、一緒に考えてみませんか。冤罪は決してひとごとではありません。
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