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首都高(※1)3号渋谷線の高架橋、六本木交差点付近の景観に、他では決して出合えない、シンプルなロゴタイプ(※2)が目を惹く。ロゴタイプROPPONGIは、六本木商店街振興組合(※3)が掲げるアート活動を軸として展開される地域まちづくりの一環で、六本木商店街振興組合と、日本が誇るアートディレクターの葛西 薫(かさい かおる)氏のタッグにより2009年にプロジェクトが実現した。
葛西 薫
アートディレクター。1949年札幌市生まれ。1973年株式会社サン・アド入社。サントリーウイスキー、ウーロン茶、ユナイテッドアローズ、虎屋などの広告・アートディレクションなどを手がける。
「バーやクラブが立ち並ぶ夜のまちの印象が強かった六本木を、いつ訪れても心や時間が充される、心地よいまちのイメージとしてデザインを考えました」とデザイナーの葛西氏は語られる。
「六本木は六本の木、ということは、デザインでロゴタイプが並木になればいいと発想しました。そのとき頭に思い浮かんだのは、ナンシー・シナトラとディーン・マーティンのデュエットソング、『初恋の並木道』(1968)でした。この曲はとても大人っぽくて洒落ていて、六本木=居心地がいい都会というイメージと重なりました」
デザインが、どう人々の記憶に残るのか。人の脳のはたらきを考えてみるとよくわかる。多くの場合、シンプルなデザインは覚えやすい。たったひとつの特徴は覚えやすいが、たくさんの特徴を記憶することは難しい。たとえば、ゴッホの『ひまわり』を思い浮かべ、ひまわりの絵を思い出すことは出来ても、花瓶にいけてある本数や、瓶の色、背景等の詳細を思い出すことは難しい。デザインはシンプルなものが人々の記憶に残るのだ。
「並木道を歩くようにワクワクしてほしい、という思いで若い木が空に伸びるようなイメージで、六本木・六本木と2度繰り返して左右対称に、並木道のようにシンプルに文字を組みました。遠くを小さく、近くを大きく描くことで奥行きが出てくると、より印象付けられるでしょう。ここに訪れるたびに親しみを感じられるようにと」
2009年に首都高外装板へ掲げられたロゴは、今年で14年目を迎える。葛西氏は、その時のことを「とても嬉しかったです」と満面の笑顔で語られた。
丁寧に注ぎ込まれ設(しつら)えられた賜物は、今でも、新しい価値観をまとって六本木の道路空間に立ち現れているのである。
※1 首都高速道路株式会社
※2 多くはデザインされた文字、文字列のこと
メインロゴタイプの他にサブとツインタイプのロゴタイプがあり、用途によって自由に使い分ける。
六本木商店街振興組合
※3 六本木交差点を中心に外苑東通りを軸として広がる。飲食店をはじめとする多種多様な店舗が営業している。アートとデザインのまちをコンセプトとした、まちづくりの活動が積極的に行われている。
(取材/おおばまりか、田中康寛 文/おおばまりか)
ビルに囲まれながらも風雅な雰囲気を醸す六本木一丁目の丘の上。2022年の暮れ、まだ紅葉の際立つ静かな木立に佇(たたず)むスペイン大使公邸で、公邸料理人のエティエンヌ・ソンタックさんにお話をお伺いすることができました。めったにお目にかかれない『味の外交官』とも呼ばれる大使公邸のシェフに、料理との出会いから公邸料理人としてのお仕事について語っていただきました。
大使公邸の厨房にて エティエンヌ・ソンタックさん
国土の大部分が標高700mくらいの高原の国です。北部は降水量に恵まれた海洋性気候、中央部は大陸性気候、東部・南部は地中海性気候です。
昭和2年築のJ.M.ガーデナーが手掛けたスパニッシュスタイルの大使公邸
エントランスホールもリノベートされ大切に使い続けられています
エティエンヌさんは大使のお食事を用意するほか、大使の賓客・スペインからの訪日代表団など設宴の料理を1人で担当しています。1人では大変ではないですか?と伺うと、「大きなパーティーのときは、友人や大使館のシェフ仲間に手伝ってもらいます。他の大使館のシェフも1人だけであることが多く、互いに助け合っています。実は昨日も別の大使館へ手伝いに行ってきたんですよ」とエティエンヌさん。
設宴の料理は、本国のお客様には日本料理の要素を取り入れたり、日本のお客様には典型的なメニューを出すことが多いそうです。「例えばスペインは日本と同じく米料理が多いので、パエリアをよく作ります。日本では魚介のイメージですが、東部のバレンシア地方ではウサギや鶏の肉がメインなので、その違いを楽しんでもらいます。お米は少し丸いスペイン米で、調理しても硬い部分がしっかり残ります。食文化の違いをきっかけにテーブルを盛り上げるのも、公邸料理人の腕の見せ所ですね」
エティエンヌさんはフランスのご出身。ヨーロッパでは週末に父親が料理を作る習慣があり、お父様も地元の食材で美味しい料理を作ってくれたそうです。中でもクリスマスのような特別な日の料理が素晴らしく、エティエンヌさんも自分の子どもにも食べさせたいと料理人を志しました。また、子どもの頃は毎年夏休みに家族でスペインに数週間滞在していたそうです。その頃から色々なスペイン料理に馴染んでいたのかもしれないということでした。
その後、専門学校で3年間学び、イギリス・ルクセンブルク・ドイツとヨーロッパ各地で働いた後、約20年前にスイスで日本人の同僚から「東京でスペイン料理のレストランを開店するので手伝ってほしい」と声をかけられ来日されました。
実は本格的にスペイン料理を手がけるようになったのは、日本に来てからとお聞きしてびっくり!そのお店ではスペイン料理だけでなく、オリーブオイルや生ハムなどの素晴らしい食材にも出会ったそうです。そのお店に以前のスペイン大使がよく来ており、ご縁を頂いて現在の公邸料理人に就任されました。
ピンチョス
すべて手作り!
生ハムの前菜
花びらをかたどった美しいフォルム
スペインを代表する聖ヤコブのケーキ
お菓子もお手のもの!
パエリア
大きな鍋で一気に50人前作れるそうです
スペイン料理の魅力をお聞きすると、「ヘルシー志向が強く、野菜をたくさん食べます。料理もオリーブオイルがメインでバターはあまり使わず、パンもオリーブオイルをつけて食べます。中でもエクストラバージンオリーブオイルは、料理からデザートまで万能のオイルです。トマトも味わいが深く、パンにのせてオリーブオイルと塩をかけて素材そのものを味わいます。それにハムがあれば最高ですね!」とにっこり。
また、「スペイン産の生ハムは味が良いだけでなく、とても脂が少なくヘルシーです。天然のドングリを食べて育ったイベリコ豚は、唯一、生でも食べられる豚肉です。私はフランス人ですが、イベリコ豚の最上級の生ハムは世界一だと思っています。また、白インゲン豆を使ったファバーダという煮込み料理も美味しいです」と熱く語ってくださいました。
私達もおすすめのスペイン産エクストラバージンオリーブオイルとチョリソーを試食させていただきました。厨房には10種類以上のオリーブオイルの瓶がずらりと並びます。オリーブオイルは果汁そのものの味わいで、今まで本物を知らなかったと感じさせてくれました。チョリソーも、豚肉の味が凝縮された味わいでした。
日本料理についてもどのように感じるかお聞きしました。「日本料理はヘルシーですし、各国の料理人のアイデアの源泉になっています」と教えてくれました。旬をとても大事にしている点や、料理人の完璧さを求める姿勢が、外国の料理人に多くのひらめきを与えてくれるのだそうです。
最高品質のエクストラバージンオリーブオイル
種子ではなく果実から作られるオイル。果汁のような果実味と深い香り。
オロ・リキド(液体の黄金)にふさわしい。品質には国際基準のランクがあります
チョリソー
とろけるような食感とともに、熟成した上質の肉の味わいが口中に広がります
大使館の印象に残っているイベントを伺うと、10月12日の『スペイン建国記念日』を挙げられました。「その日は公邸の庭を開放し、料理を取り揃えて数百人のお客様とお祝いします。メインが料理なので『シェフの日』でもあります。コンタドール(ハムを切る人)・パエリアを作る人・パスタを作る人…と大勢の仲間に手伝ってもらいます。2022年は3年ぶりで準備が大変でしたが、やっと集まれたという思いが強かったです。お客様に喜んでいただけるかプレッシャーもありましたが、喜びもひとしおでした」と嬉しそうに話されていたのが印象的でした。他にもミシュラン三つ星のシェフと一緒に設宴をしたり、金メダリストにお料理をお出ししたことも。これも公邸料理人でないとできないことですね。
最後に、麻布の皆さんへのメッセージを伺いました。
「大使公邸のシェフとしては直接地元の方々と接する機会は多くありませんが、大使館は地元の皆さんとの交流にも努めています。無料の展示会などもありますので、ホームページをご覧いただき、お立ち寄りください」
落ち着いた調度にゆったりとした時間の流れる応接室で、エティエンヌさんのスペイン料理愛に圧倒された取材でした。スペイン産のエクストラバージンオリーブオイルや生ハムも、最近は日本でも手に入れることができるといいます。少し値は張りますが、品質の良いものは少量味わうだけでも深みを感じることができるそうです。ぜひ違いを味わってみてはいかがでしょうか。
駐日スペイン大使館 港区六本木1-3-29
https://www.exteriores.gob.es/Embajadas/tokio/ja/Paginas/index.aspx(外部サイトへリンク)
(取材・文/樋口政則、堀内明子)
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所属課室:麻布地区総合支所協働推進課地区政策担当
電話番号:03-5114-8812