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令和7年(2025)3月、 放送開始100年を迎えるNHKの歴史がひと目でわかる愛宕山NHK放送博物館をご案内しましょう。
大正14年(1925)3月22日、東京放送局からラジオの放送が始まりました。芝浦にあった東京高等工芸学校の一室を借りての放送でした。「JOAK、JOAK、こちらは東京放送局であります」が第一声でした。
同年7月12日に愛宕山からの放送となりました。家庭では鉱石式ラジオのレシーバーを耳にあて聞いていましたが、時間によっては聞きづらい時もあったとか。ラジオの受信契約数は3,500、庶民には高嶺(たかね)の花でした。
港区の愛宕山の放送局が手狭になったため、昭和13年(1938)内幸町の地(現在は「日比谷シティ」が建っています)に移転しました。かつての放送局の跡地には、昭和31年(1956)「NHK放送博物館」が誕生、世界最初の放送専門のミュージアムとして開館しました。
1階エントランス
現在の博物館の中を各階ごとにご案内しましょう。まず、4階から下の階に順に回ってみましょう。
「番組公開ライブラリー」ではNHK が放送した番組の中から約1万本が視聴できるようになっています。昔懐かしいドラマや人気番組を見ることができます。このフロアには「図書・史料ライブラリー」もあります。
番組公開ライブラリー
「ヒストリーゾーン」では、時代を伝えてきた貴重な映像や放送機材などを通じて、ラジオ放送開始からの歴史をわかりやすく展示しています。
ラジオの放送開始から100年。その間ラジオからテレビへ、さらに衛星放送やハイビジョン、そしてデジタル放送へと大きく進歩・発展してきた歴史が一望できます。なかでも終戦を伝えた玉ぎょく音おん放送の録音盤やテレビ実験時代からの放送機器は一見の価値ありです。企画展は年に3〜4回テーマに応じて企画展示室で開催しています。
1960年代のお茶の間の再現
「ドラマ」「音楽放送」「こども番組」「オリンピック放送」の魅力を伝える「テーマ展示」では、懐かしい番組や名場面、キャラクターたちとも出会えます。
歴代のキャラクターにも出会えます
「放送体験スタジオ」では、「アナウンサー」「気象予報士」になりきり、放送の体験ができます。どの世代にも楽しめるコーナーです。
「8Kシアター」は200インチ大型スクリーンと22.2マルチチャンネル音響で大迫力の8Kスーパーハイビジョンが楽しめます。
放送体験スタジオ
子どもから大人まで楽しめる博物館、100年の放送の歴史を詰め込んだNHK放送博物館へ足を運んでみてはいかがでしょうか。
学芸員・磯﨑さんが案内してくれました
愛宕山
標高26m。自然の地形では東京23区で最も高い山
NHK放送博物館へのたくさんの行き方
NHK放送博物館
NHK MUSEUM OF BROADCASTING
〒105-0002 東京都港区愛宕2-1-1
取材・文:伊藤 早苗
ワイン業界のパイオニアとして知られる太田悦信(おおたよしのぶ)が設立した、ワインの輸入・販売、レストラン事業を営む株式会社シュヴァリエ。2025年には飲食業100周年を迎えます。芝三丁目のレストラン「シュヴァリエ」にて、4代目を引き継いだ姪(めい)の太田嘉代子(おおたかよこ)さんに、お話を伺いました。
「CHEVALIER」の外観と店内
歴史は、嘉代子さんの叔父、悦信の父が、大正14年(1925)、新宿で「大衆食堂」を創業したことに始まります。太平洋戦争に突入した昭和16年(1941)に生まれた悦信。戦後は子どもであっても働かなくてはいけなく、8歳から父の経営する飲食店でお酒の提供を手伝いました。
焼酎が9分目まで入っているコップへ赤ワインを注ぎ、受け皿まで満たすと、お客さまは悦信を褒めてくれました。戦争を生き抜いた喜びをかみしめ、まるで極上ワインを楽しむかのような光景。これが悦信のワインをサービスする原点です。
創業当時の「大衆食堂」の暖簾(のれん)
昭和39年(1964)、学習院大学政経学部を卒業後、父の店を引き継ぎます。洋食とワインを提供する「れすとらんおおた」にスタイルを変え、経営を担(にな)いました。そしてワインに人生を捧(ささ)げるようになっていきます。
昭和45年(1970)に渡仏。ブルゴーニュで、醸造と試飲の技術を学びます。「ワインを粗末に扱うことなどできない」と言う悦信の強い信念に、生産者たちは悦信を重要なバイヤーとして扱ってくれるようになりました。
パリで「Le beaujolais nouveau est arrivé!(ボジョレー・ヌーヴォー入荷)」の看板を見かけた悦信は、「これは何だろう」と疑問をもち、初めて「ボジョレー・ヌーヴォー=その年の新酒」と理解。「その文化を日本にも!」と考え、日本のボジョレー・ヌーヴォー・ブームの立役者となりました。
昭和55年(1980)にフランス料理レストランシュヴァリエとして三田に移転。場所は、慶應義塾大学三田キャンパスの裏、イタリア大使館そばにある3階建ての一軒家です。悦信がこの地に決めたのは、静かな住宅街であったことと、地下水が流れていたことが理由です。レストランの下に、ワイン貯蔵に適した地下蔵を設けたことで、ワイン愛好家や、政治家などが通い、黒塗りの高級車が並びました。そうして平成元年(1989)フレンチレストランの経営とワインの輸入商社として、株式会社シュヴァリエを設立しました。
悦信のこだわりの一つ「お百姓(ひゃくしょう)の元詰めワイン」とは、フランスの単一農家が自分たちの畑で収穫したブドウを使って、自らの手で瓶詰めしたワインです。その土地ならではの風味や香り、テロワール(ブドウ畑を取り巻く地形や気候、土壌などの自然環境が、ワインの味に影響を与えるという考え方)を大切にしました。
もう一つのこだわりは、ワインの保管です。品質が劣化しないよう、フランスの醸造元のセラーにリーファーコンテナ(内部に備え付けられた冷却装置により、内部の温度調整を可能とするコンテナ)を横付けし、13度に保ったまま直輸送。栃木県宇都宮市大谷町の大谷石採石場跡地に30万本貯蔵できる巨大地下ワイン蔵を設け、コンテナの状態のまま持ち込みました。地下6mから8m。壁には水がしたたり落ち、年間を通し湿度は90%以上。気温は四季があり、夏は16℃、冬は10℃。振動がなく、作業時の電灯以外、光はありません。この4つがそろった蔵で、自然の力を利用し、最適な環境でワインを熟成させ、飲み頃になるとレストラン地下の蔵に移送し、提供しました。
ワインの楽園「CHEVALIERの大谷貯蔵庫」にて、「ワインは、産まれた時は一緒でも、育つ過程が違うと味に違いが出てきます。大谷貯蔵庫で熟成させ、本来のワインのポテンシャルを最大限に引き出す『健康なワイン』を届けるのが使命」と語る嘉代子さん
毎年、フランス各地に出向いた悦信。「人柄が良い人は、良いワインを造る」という信念のもと、生産者との対話を大切にしました。
生涯を通しワインに情熱を捧げた悦信。ブルゴーニュのシュヴァリエ・デュ・タストヴァンなど、フランスのワインの各産地で7つの称号を授与されました。また、ソムリエや酒販売のプロ育成のために「シュヴァリエ講座」を長年にわたって主宰。平成31年(2019)に77歳で他界するまで、多くの人材をワイン界に送り出しました。
ブルゴーニュのシュヴァリエ・デュ・タストヴァン1977年授与の際の写真
嘉代子さんは、悦信の姉の娘。ホテル業界を経て平成6年(1994)に株式会社シュヴァリエの販売部に入社。叔父の秘書として、生産者とのやり取りも行っていました。
「憧れていた叔父の亡き後、高品質のフランスワインを日本の人々に届ける使命と、ワインのおいしさと楽しさを広めることを、引き継ぐ覚悟をしました」と話す嘉代子さん。
令和2年(2020)12月31日に三田の一軒家レストランは都合により閉じることになり、1年後の令和3年(2021)8月28日に芝三丁目で再開します。「株主のお客さまが、おいしいワインを楽しめる環境を欲していらっしゃる間に、なんとしてでもレストランを再開しなくては」と、コロナ禍で、生産者を訪問することも、仕入れも、レストラン経営も、大変厳しい時期に、4代目として奮闘を続けました。
シェフはホテル西洋銀座で料理長を務めた経験のある野⼝敏⾏さん。ネオクラッシックスタイルのフランス料理。ソースには、料理用のワインではなく、その日お客さまが料理に合わせて楽しむ厳選されたワインを使っています。これも、ワイン販売部とレストランがつながっているからできること。料理とワインの夢のようなマリアージュを、リーズナブルな価格で提供することで、株主はもちろん、芝地区の大人の方々に気軽にレストランで楽しんでほしいと願っています。
シェフの野口さんは料理を作る時はとても真剣。でも話しかけるとにこやかな笑顔で応対してくれます。
叔父が授与された「ブルゴーニュのシュヴァリエ・デュ・タストヴァン」を、令和6(2024)年10月26日に嘉代子さんも任命されました。ブルゴーニュのクロ・ド・ヴージョ城に立つ嘉代子さんの雄姿を、天国の悦信があたたかく見守っていることでしょう。
ブルゴーニュのシュヴァリエ・デュ・タストヴァン授与の様子
取材にご協力いただいた、シェフの野口敏行さんと太田嘉代子さん
取材:森 明/ 早川 由紀 文:早川 由紀
参考文献:「大人のワイン塾」太田悦信 著 https://chevalier.co.jp/(外部サイトへリンク)
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