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2022年10月26日(水曜)
杉浦沙妃、佐藤理沙子、加藤早蘭(東京工業大学附属科学技術高等学校)
内閣府は2022年の「障害者白書」にて、身体障害者が約436万人、知的障害者が約1109万4千人、精神障害者は約419万3千人であり、障害者の総数は964.7万人であることを発表しました。これは、人口の約7.6%に相当し、国民の13人に1人はなんらかの障害を有していることになります。
この中には子どもも含まれていますが、障害があることで、働きづらさを感じていたり、望むように働けない人も少なくありません。そして、そのような人々の働きたいという希望に合わせ、働く機会を提供する場があります。
みなと工房が運営する港区立伝統文化交流館の喫茶「紫陽花(あじさい)庵」では、飲み物や甘味、焼きおにぎりなどを提供する
今回私たちが取材したのは、就労継続支援B型事業所の「みなと工房」です。就労継続支援は、障害で一般的な就労環境に働きづらさを感じる人たちに、支援と働く場を提供する福祉サービスです。就労継続支援事業所にはA型とB型のふたつのタイプがありますが、B型は障害や体調に合わせて自分のペースで働けることが特徴です。
「みなと工房」には、統合失調症や双極性障害、鬱(うつ)など精神障害のある方や精神科に通院している方などが通われています。「みなと工房」では、作業を通じて生活リズムを整え、心の病のある方たちが社会との接点を持ち、また安定した生活を維持するための場を提供しています。
みなと工房のマーク
この活動は、精神障害のある子どもたちに就労の場を提供したいという思いから始まりました。精神障害のある子どもがいる家族が集まり1993年に「精神障害者家族会みなと会」が設立され、同年に「精神障害者共同作業所みなと工房」の事業が開始されました。その後、社会福祉に関連した法律の整備に合わせて体制を整えながら、現在の「社会福祉法人港福会みなと工房」になったのです。地域に根差した活動を続けるにつれて、企業から受ける仕事や作業の種類も増えてきています。
みなと工房の利用者も働く福祉喫茶が入る「伝統文化交流館」
みなと工房では、生活リズムを整えるために日課があります。利用者の心身の健康を考慮し、その日の体調に合わせてすることを決めています。
時間 |
やること |
9時00分~9時35分 |
体操、ミーティング |
9時35分~10時35分 |
ワークタイム |
10時45分~11時45分 |
ワークタイム |
12時40分~12時50分 |
体操、ミーティング |
12時50分~13時50分 |
ワークタイム |
14時00分~15時00分 |
ワークタイム |
ミーティングでは、自分の考えや悩みを人に話します。自らの思いを他者に伝えたり、多くの人の話を聞き他者に共感することで、自分の生活に活かすために行っています。
またワークタイムでは、様々な作業を通じて連帯感や達成感を感じられることを目指しています。利用者の特性や希望に合わせて、作業の内容を変えています。主に行っている作業は、下の表のとおりです。
企業等から受託した作業 |
「紫陽花庵」運営、箱折、PC入力、 宛名シール貼付、清掃等 |
みなと工房で行っている作業 |
「みなと茶寮」運営、メッセージカード制作、 ビーズ製品制作、名刺・封筒棟印刷物制作等 |
ここで制作した可愛らしいメッセージカードやビーズ製品などは、港区役所にある福祉売店「はなみずき」で販売しています。また、日課のほかに太極拳教室や書道などのレクリエーションもプログラムに入れることで、自己表現や生活の向上、ボランティアとの交流なども促しています。
みなと工房は、港区内でふたつの軽飲食店を運営しています。港区立伝統文化交流館内にある喫茶「紫陽花(あじさい)庵」と、札の辻スクエア内の「みなと茶寮」です。
「紫陽花庵」では飲み物や甘味、焼きおにぎりなどの和風の軽食を低価格で提供しており、気軽に甘味や軽食を楽しめます。また「みなと茶寮」では飲み物やデザート、スープとパンやスパゲッティなどの洋風の軽食を提供しています。
取材後、実際に「紫陽花庵」に行き、カフェラテと今川焼(クリーム)を買ってみました。どちらもとてもおいしかったです。
「紫陽花庵」が入っている伝統文化交流館は、美しい歴史ある建造物です。素敵な和風の空間の中で、おいしい食べ物、飲み物を堪能してみてはいかがでしょうか?
福祉喫茶「紫陽花庵」(伝統文化交流館)のメニュー
福祉喫茶「紫陽花庵」のカフェラテと今川焼
みなと工房の利用者のひとりである、喜多埜(きたの)さんにお話を伺うことができました。喜多埜さんは高校生の時にテストでノイローゼを発病し、それから入退院を繰り返していたそうです。ご自身のお父様の働きかけにより家族会が設立、そしてみなと工房の事業が始まりました。喜多埜さんはみなと工房が設立された当初から利用しています。
喜多埜さんはご自身の高校生の頃を振り返り、「死にたいって思うのはちょっとおかしいって思うかもしれないけれど用心してね。調子が悪かったら、専門の人にちゃんと診てもらって、服薬するかしないか両親と話して治療してね。入院は短期ならいいけど長期になると自分が悩んで苦しむから」とおっしゃっていました。
また、喜多埜さんと同年代の人たちからの理解が得られにくいということや、ご自身が働いている伝統文化交流館の紫陽花庵について「もっとたくさんの人に気軽に利用してくれたら」ということも話されていました。
こうして利用者をサポートする環境を整えているみなと工房ですが、課題もあります。
まずひとつは、みなと工房の定員以上に利用希望者がいることです。ならば定員数を増やせばいいじゃないか、と考える人もいるかもしれませんが、そういうわけにもいきません。利用者数をこれ以上増やすと、利用者に寄り添ったサービスを提供できなくなってしまうからです。
次に、精神障害者に対しての理解が得られにくいことです。現在は、以前に比べると理解は深まりつつありますが、それでもまだ追いついていないと言えます。例えば、鬱病に関して「鬱は甘え」といった誤解はまだ残っています。喜多埜さんも、同年代の人たちが理解を示してくれないことに触れていました。周囲の人から理解を得られにくいのは、精神障害のある人にとって辛いことだと感じました。
最後に、喫茶や茶寮がもっと知られてほしいと思いました。喜多埜さんも「伝統文化交流館には様々な人が来るので喫茶をもっと利用してほしい」とおっしゃっていました。「紫陽花庵」は、田町駅から徒歩8分ほどの伝統文化交流館の中にあります。伝統文化交流館を利用していた私でも、この取材まで一階に喫茶があることを知りませんでした。もっとこの地域の学校や会社に通っている人に知ってもらえればそこで働く人の意欲も上がるのではないかと思います。
取材を通して、一人ひとりの性質を理解するのは難しいことですが、だからこそ寄り添うことがとても重要なのだと感じました。
みなと工房のサービス管理責任者の太田さんは「障害のあること自体が辛いのではなく、障害がありながら生きる時により辛さを感じるのだと思います。それを解消するには、周囲が理解し寄り添うこと。そして障害のある人がその人らしく生きられることが大事だと考えています」とおっしゃっていました。
障害がある方もその人らしく働ける環境が増えることで、人々の意識も少しずつ変わっていくと思いました。
喜多埜さん(左端)と取材班生徒
私は元々精神障害について興味があり、図書館やネットで調べていたのである程度の知識はあるつもりでした。
しかし、実際に話を聞くと周りの理解がないことへの辛さ、症状によって対処を変える難しさ等がより鮮明になりました。特に入院すると悩み苦しむという体験談はよい勉強になりました。人の傷を理解し寄り添える人間になりたいと思いました。
取材という貴重な機会をいただき、初めて聞くお話が多くとても勉強になりました。SDGsの具体的な取組等についてはあまり知らなかったので、取材を通じてこれから自分にできることを考えるきっかけになったと思います。
17個ある目標を幅広く選び様々な取組を行う会社・企業が多いなか、みなと工房さんは3個の目標を徹底的に取り組まれていて、とても興味深かったです。私たちには直接関係のない取組のように思えますが、自分たちの行動がみなと工房で働く方々を、彼らの取組を応援できるという仕組みに感動しました。
お問い合わせ
所属課室:芝浦港南地区総合支所協働推進課地区政策担当
電話番号:03-6400-0013(内線:3852)
ファックス番号:03-5445-4590
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